【脳疲労】とは

  1. BOOCS公式サイト トップ
  2. 【脳疲労】とは(BOOCS脳疲労仮説の提唱)

BOOCS脳疲労仮説の提唱

1、はじめに 今、子ども達は

 8月11日に新聞発表された文部科学省の学校基本調査速報によれば、2000年度の中学生の不登校児の数は、全国で10万8000人(3.6%増)という。

しかも、過去の「青少年白書」のデータと比較してみると、不登校の絶対数は1991年の約2倍近くになっている。逆に、中学生総数は、ここ15年連続して減少していることから考えても、かなりの率で増加しつつあることが分かる。また、同じ「青少年白書」によれば、近年、保護者(多くは両親)が子どもに対し、暴行を加えるなどの児童虐待が増え続け、児童相談所が受付けた相談件数だけでも1990年の1,101件から11,631件へと10倍以上に増加している。新聞紙上で騒がれる母親の子殺しという、常識では理解し難い現象も、決して特殊な出来事ではないことがこれらの数字から窺われる。もっとも不登校児と被虐待児がどの位一致するのかはデータがないので明らかではないが、いずれにしろ子ども達にとって、家庭や学校の中に居場所が失われつつあることは確かと言える。

我々が6年前に行った福岡市の小、中、高校生の予備調査では、95%の子ども達に、「気力がない」、「頭がぼんやりしている」、「イライラする」、「怒りっぽい」、「疲れやすい」、「肩こりがある」、「朝起きるのがつらい」、「朝食欲がない」、「よくあくびがでる」といった12項目の心身症のうち、何らかの症状が見られた。しかも、これらの項目のうち、5項目以上の症状を併せ持っている子どもが、小、中、高生ともに40%を超えていた。また、興味深いことにこれらの症状とインスタント食品の摂取量、脂っこい食事の摂取回数、間食にジャンクフーズをとる量とは有意な正相関が見られた。

一方、もっと年長の大学生の年代ではどうなのか。最近、九州大学の学生の中で、私の講義に出席した学生(各学部の混成)に毎年行っているアンケート調査にも、それがはっきり表れている。「体を使わないのにヘトヘト」、「不安だ」、「希望がもてない」、「気持ちが沈んで暗い」、「考えがまとまらない」、「いらいらする」、という項目を週に2〜3回以上感じているという学生がそれぞれ2〜5割も存在し、さらに驚くべきことは、「自分は価値がない人間だと思う」と答えた学生が24%いたことである。偏差値という尺度では、一応エリート組に入れられている学生が、である。もちろん、質問紙調査という限界は十分考慮しておけねばならないが、一部、面接を行ったデータを重ねて見れば、これらの調査が傾向を正しく表していることは確かと思われる。
これらのデータと上述の新聞発表のそれとを重ね合わせて、少し大胆なまとめ方をすれば、子ども達と若者は今“疲れている”のである。それも、筋肉疲労ではなく、後で述べる“脳疲労”とでも言うべき状態である。まさに、子ども達は、飢餓から飽食、貧困から物質充足という社会変化の中で、新たな受難の時代を迎えていると言えよう。もちろん、一方では、少年による家庭内暴力や殺人という加害者側の側面も大きく報道されているが、トータルに見れば、被害者、弱者の立場の方がはるかに大きいことは言うまでもない。

そこで、この原因は何かということが、まず問題になるが、これを語れば百家争鳴、結論が出た時は、少子高齢化社会は沈没してしまっている可能性がある。そこで、とりあえず今すぐやれる現実的な対症療法、救急対策、あるいはストレス緩和ケアと言うべき方法を提唱したい。

2、BOOCS(脳疲労仮説) ―子ども達へのメッセージ

図
表

(1)「脳疲労」とは

前述のように、子ども達の「疲れている」状態は、走ったり、跳ねたりすることで起こる「身体疲労」、「筋肉疲労」ではなく、精神・神経疲労であることは明らかである。この状態を、ここで仮に「脳疲労」と呼ぶことにしよう。この仮説(脳疲労仮説)を立てるのは、そのことで子どもの達の異常な状態を理解と説明が容易になり、結果として対応策、治療対策が生まれている可能性が大きいからである。

そこで、「脳疲労」とは何か。脳の構造と機能という医学的立場から説明すれば、「大脳新皮質と大脳旧皮質、および間脳との関係性破綻」と定義される(図1参照)。ここでのこの仮説の実用的応用のために、専門的迷路に入らない程度で、少しばかり医学的注釈をすることをお許し頂かねばならない。

大脳は脳の中の司令塔というべき存在で、それは大脳新皮質と大脳旧皮質(大脳辺縁系)の二つに区分される。前者は、言語や論理、芸術を理解するなどの知的中枢で、後者は喜怒哀楽、快不快といった情動や本能の中枢である。一方、大脳の下方には間脳と呼ばれる自律神経中枢や食欲中枢がある。これらの脳のしくみを仮に「高度情報処理システム」と呼ぶことにすれば、人間を取り巻く環境は、「情報」または「情報源」と言える。

もし、「高度情報処理システム」の処理能力を上回る「情報」が脳に入ってくると、すなわち「情報過多」になると、当然このシステムの機能は破綻する。まず、知的中枢である「大脳新皮質」は外からの「知的情報(ストレス)」に向かってフル回転することになり「内からの情報」である「大脳旧皮質」からの情報(情動、本能の情報)を無視せざるを得ず、その結果、情報の流れは「大脳新皮質」から「大脳旧皮質」へと一方向的(抑圧的)になり、両者の情報交流、情報処理のバランスが失われることになる。それは当然、脳機能の低下につながり、さらに下方の自律神経を司る「間脳」の機能がスムーズに働かなくなる。

このような脳の状況は、「大脳新皮質」を夫、「旧皮質」を妻、「間脳」を子どもに例えれば、理解しやすくなるかも知れない。すなわち、仕事人間にならざるを得ない夫と家族を守る妻との関係は、夫婦の不一致、不和につながり、そしてその間に立つ子どもが不安、不安定な状態に追い込まれることは、日本の若年、中年夫婦の現実ではないだろうか。そこで、これをなぞって、「脳内ファミリーの家庭内不和」とも言える。

さて、もともと知的情報処理には目いっぱいの働きをしている「大脳新皮質」は、「大脳旧皮質」とのバランスを失い、協力がなくなれば、急速に力が失われる(機能不全になる)ことは、現実の夫婦をイメージすれば理解は容易であろう。これは、「大脳新皮質」(の中のとくに前頭前野)の高度昨日である認知、概念認識に障害をもたらす。その結果、「行動異常」が起こり、さらにそれが進んで固定した状態、すなわち医学的な「精神異常」が起こる。これが図1で示す新皮質系のフォローを説明するものである。

一方、図1に示すように「脳疲労」の結果、大脳旧皮質の機能不全として「五感異常」が生じる。例えば、味覚が鈍感になり、その結果、過食などの「食行動異常」が起こり、肥満という「身体異常」に至る。最近「生活習慣病」と呼ばれるようになった糖尿病、高脂血症、高血圧なども肥満と同じ流れで説明できると考えられる。

(2)BOOCS―「脳疲労」を解消する

筆者らは、この「生活習慣病」の中でも治療がなかなかうまく行かない肥満をモデルに、その発症仮説とし「脳疲労仮説」を用い、それを基に新たな治療仮説(BOOCS=Brain Oriented Oneself Care System=脳疲労自己解消法)をつくり、実際に適用してみた。すなわち「脳疲労」を解消すれば、肥満は治るという考え方である。それを実際に応用した結果は後で述べることにして、ここでBOOCS法の具体的方法は、表1で示す二つの原理と三つの原則と若干の具体的な技法によりなる極めてシンプルなものである。しかし、第一原則と第二原則に表れているように、一見、逆説、反常識に見える為に、理論の理解は容易ではないかも知れない。そこでなぜこの三原則が成立するのか、必須であるかを簡単な比喩を使って説明すれば、イソップ物語の「北風と太陽」の寓話に帰することができる。

すなわち、第一原則は、「北風」型思考と手法を止めることによって治療(教育)自体が引き起こす新たな「脳疲労」を、とりあえず解消ないし防止しようとするものである。

第二原則は、「行動異常」が、実は「ストレス過剰」の単なる結果だけではなく、それ自体が重要なストレス対策、応急処置にもなって、とりあえず“その個人のバランスをとる”というプラスの効用を持っていることを理解し、受け入れようとするものである。言い換えれば、目前の危機管理がなされねば、将来の大きな良い結果を得ることは、不可能であるということである。

第三原則は、「太陽」型手法(心地よさ、快感覚の回復)を用いて「大脳旧皮質」を積極的に活性化することで、「大脳新皮質」と「大脳旧皮質」との関係修復をはかる、すなわち、「脳疲労」を解消しようとするものである。これが、肥満治療の場合には、自分が好きで健康に良い食事を満足の行くまで、質・量ともにたっぷり食べることがやせるのにもっとも有効というパラドックスが成立する理由である。

この仮説をさらに理解して頂くために、なぜ従来の「カロリー制限療法」が長期的には成功しないのかを、この仮説で説明してみよう。従来のカロリー制限療法は、図1の流れの下流、すなわち過食という「行動異常」が肥満につながるという部分だけをみれば問題がないように見える。しかし、その指導自体が抑圧と禁止情報であること(「北風」型手法)と、「食べられない」という状態こそストレスの中でも最大のものであることが、結果として肥満の原因である「脳疲労」を一層増大させることになる。その結果、「五感異常」(味覚鈍麻)がさらに進行して、治療前より「食べたい」欲求レベルが上がることになり、実際に指導者から指示された量とのギャップが大きく広がる。そして、ついに食べたい欲求を抑制できなくなってドカ食いが始まることにつながる。これが従来法でリバウンドや繰り返し肥満治療を行っては失敗するメカニズムと考えられる。

それではBOOCS法を用いたらどうなったか。肥満の多数例にBOOCS法を適用した結果、成功率が従来の医学的手法より、格段に高いこと、安全に容易に実行できること、また従来法と異なりリバウンドも極めて少ないことが分かった。肥満以外の生活習慣病についても同様の発症仮説と治療仮説を適用できると考えているが、その実証は現在進行中である。

新たな仮説とその応用について、このような短い説明で終わるのは、大きな誤解を生む可能性が高いが、紙数の関係か詳しくは拙者(「ブックスダイエット」:NECメディアプロダクツ、「BOOCS−至福のダイエット革命」:講談社)をご参照頂くことにして、話を先に進めよう。

(3)BOOCS脳疲労仮説は不登校児にも有用か

それでは、BOOCS法は不登校児にも有用であろうか。これに答える前に、不登校やキレる現象は何故起こるかを、脳疲労仮説を用いて説明してみよう。

再び図1を見て頂くと情報(ストレス)過多、それも知的情報過多の状況におかれた子ども達は、その「大脳新皮質」のオーバーワークによって、「脳疲労」(大脳新皮質、旧皮質、間脳の関係性破綻)に至る。その結果、大脳新皮質の認知機能が低下(促進不全=アクセル機能の低下)し、一方で旧皮質経路の機能不全から生じる「五感異常」も重なって、「不登校」、「引きこもり」という「行動異常」が生じると考えられる。むろん、認知機能の低下から不登校に至る経過には、他の因子が少なからず関与するので、大脳新皮質昨日不全が起こっても、必ずしも「不登校」、「引きこもり」になる訳ではない。一方「キレる」、「いじめ」も同じ流れで生じるが、この場合は「認知異常」が抑制不全=ブレーキ機能低下として発現する違いがある。

いずれにしろ、「不登校」、「引きこもり」は「脳疲労」より生じると考えるのは、空想ではなく、一つの仮説として成立すると思われる。とするならば、身体異常モデル(肥満)で、「脳疲労」を解消することにより肥満治療が成功したのなら、新皮質経路の機能不全と旧皮質経路の機能不全という違いがあるとは言え、同じ「脳疲労」をスタートとしている「不登校」、「引きこもり」にも「脳疲労」解消法であるBOOCS法が有効である可能性が大きいと考えるのは妥当であろう。実際、まだ少数例ながら、不登校児を対象にその有効性が確かめられつつある。

むろん、今後十分に検討されなければ最終的な結論は得られないが、何よりも、この手法が安全であること、現在、他に不登校児対策として適切なものが見当たらないこと、冒頭に述べたように子どもの実態は切迫していることを考えれば、BOOCS法を実行してみることは少なくとも無駄にはなるまい。

そこで、次にBOOCS法を不登校児に具体的に適用するためのいくつかの条件、問題点を列挙しておこう。

3、まず目前の対策を

(1)知識教育から知恵伝授へ

もともと不登校という「行動異常」につながる「脳疲労」の原因は、情報過多(ストレス過剰)である。つまり、「知識」のつめ込みに編重している教育そのものの問い直しが必要な時に来ているのは間違いない。本来、教育は何かを押し込むものではなく、引き出すものであろう。百歩譲って、何かを与えるとすれば、知識の前に、あるいは知識と共に、いつも基本的な知恵(階層化された知識)を与える必要があろう。その知恵とは何かを誤解なく語るには、余りにも紙数が短か過ぎるが、キーワード的に言えば、目に見える世界と目に見えない世界、合理と非合理の一体性を伝えること。それも言葉で抽象的に教えるのではなく、具体的な事象(自然とくに植物、動物そして食べ物)を通じて子ども達に感じてもらうことであろう。また、他者の痛みと喜びを共感する機会を与えることであろう。言い換えれば、「関係性」の認識、結ばれる実感を持つことである。それは他者との関係だけでなく、内なる自己との関係(新・旧皮質、間脳の関係)、そして、超自然との関係を知ることである。

しかし、このようなことを子ども達に伝えるのに、果たして今までのような親、教師という一世代差の人達のみで可能かどうか。多分、それは困難で、それを克服するには二世代差、つまり祖父母の世代との交流が並行して行われることが必要かつ有効であろう。それも、ふつうの老人ではなく、「生き生き老人」でなければならない。

(2)子ども達と「生き生き老人」との交流 −新たな「塾」こそ

不登校児の問題は、その原因対策(根本的対策)と応急・救急対策が必要であるが、現状はまず、後者の水際作戦が焦眉の急である。そこで具体的提案をすると、「生き生き老人」が応急対策法としてBOOCS法を用いて子どもと接するのが一番現実的ではないかと考えている。「生き生き老人」は子どもの「脳疲労」を癒すことができるのである。

少し余談になるが、以前「生き生き老人」の健康の秘訣を学ぶことが、健康科学を高めると考え、調査を行ったことがある。すなわち、65歳以上の人で医学的に健康で、社会的活動を行い、経済的に自立している方を公民館や老人団体から推薦してもらい、その方々を「生き生き老人」と定義して、寝たきり老人と比較したのであるが、大変興味深かったのは、「生き生き老人」とコレステロールや血圧などの医学的指標とは、ほとんど関係なかったことである(ただ生き生き老人で歯の残存数のみは多かったが)。

そして、インタビューで分かったことは、「生き生き老人」には人の喜ぶことをするのが喜びという感覚と、宗教団体にはどこにも所属していないにも関わらず、自分が何か多いなるものに生かされているという感覚の持ち主が多かったことである。まさに、「生き生き老人」とは相対的に知恵もあり、経済的・時間的な余裕もある人々と言えよう。すなわち、このような人々「生き生き老人」こそ、疲れた子ども達を癒す最高の教師ではないか。この交流の場を「老稚園」とでも呼べば、フリースクールとして、現在の公立学校、私立学校とは別の第三の組織、新たな塾がつくられるのではないか。

このように子ども達と老人との交流の価値を提唱するのは、今まで「少子高齢化社会」を負の側面だけで捉えられていることに対する異議の申し立てでもある。

4、おわりに

 説明不足による誤解を恐れず、また仮説自体の未熟さも顧みず、新たな仮説とその効用を述べてきたのは、今、子ども達の状況が余りにも切迫しているからである。そして、それは、モノ、カネあるいは近代合理主義それ自体の価値観の飽和、崩壊を警告している姿に見える。それは、そっくり地球環境の破壊とその結果起こる生物の必然的反応と思われるのである。

 今回は語ることができなかった、ストレス(情報)を処理する脳自体が、実は食べ物から入っている環境ホルモンにより構造的に異常になっていることが、最近の脳科学研究から強く疑われるのである。これは、はじめに述べた我々の調査で子ども達の精神・神経症状が、種々の食行動異常と密接な関係があったことと重なり合う。

 それではこのような時、どう我々は考え、行動したらよいだろうか。いろいろな方向が考えられるのは当然であるが、ただ、最初に根本的原因を除去する方向から入るのは適策ではないと思われる。むろん、事態に絶望し、無策のままで放置することやパニックに陥るのはもっと愚かなことである。まず、目前の火を消すこと、今できることから始めることではないだろうか。その一つの考え方、方法としてBOOCS法を紹介した。

ページの先頭へ